歌 21 – 40

No. 21

今来むといひしばかりに長月の 有明の月を待ち出でつるかな
いまこんと いいしばかりに ながつきの ありあけのつきを まちいでつるかな
素性法師
そせいほうし

No. 22

吹くからに秋の草木のしをるれば むべ山風を嵐といふらむ
ふくからに あきのくさきの しおるれば むべやまかぜを あらしというらん
文屋康秀
ふんやのやすひで

No. 23

月見ればちぢに物こそ悲しけれ 我が身一つの秋にはあらねど
つきみれば ちぢにものこそ かなしけれ わがみひとつの あきにはあらねど
大江千里
おおえのちさと

No. 24

このたびは幣も取りあへず手向山 紅葉の錦神のまにまに
このたびは ぬさもとりあえず たむけやま もみじのにしき かみのまにまに
管家
かんけ

No. 25

名にし負はば逢う坂山のさねかずら 人に知られで来るよしもがな
なにしおはば あふさかやまの さねかづら ひとにしられで くるよしもがな
三条右大臣
さんじょうのうだいじん

No. 26

小倉山峰のもみぢ葉心あらば 今ひとたびのみゆき待たなむ
おぐらやま みねのもみじば こころあらば いまひとたびの みゆきまたなん
貞信公
ていしんこう

No. 27

みかの原わきて流るるいづみ川 いつみきとてか恋しかるらむ
みかのはら わきてながるる いずみがわ いつみきとてか こいしかるらん
中納言兼輔
ちゅうなごんかねすけ

No. 28

山里は冬ぞ寂しさまさりける 人目も草もかれぬと思へば
やまざとは ふゆぞさびしさ まさりける ひとめもくさも かれぬとおもえば
源宗于朝臣
みなもとのむねゆきあそん

No. 29

心あてに折らばや折らむ初霜の 置きまどはせる白菊の花
こころあてに おらばやおらん はつしもの おきまどわせる しらぎくのはな
凡河内躬恒
おおしこうちのみつね

No. 30

有明のつれなく見えし別れより 暁ばかり憂きものはなし
ありあけの つれなくみえし わかれより あかつきばかり うきものはなし
壬生忠岑
みぶのただみね

No. 31

朝ぼらけ有明の月と見るまでに 吉野の里に降れる白雪
あさぼらけ ありあけのつきと みるまでに よしののさとに ふれるしらゆき
坂上是則
さかのうえのこれのり

No. 32

山川に風のかけたるしがらみは 流れもあへぬ紅葉なりけり
やまがわに かぜのかけたる しがらみは ながれもあえぬ もみじなりけり
春道列樹
はるみちのつらき

No. 33

久方の光のどけき春の日に しづ心なく花の散るらむ
ひさかたの ひかりのどけき はるのひに しずこころなく はなのちるらん
紀友則
きのとものり

No. 34

誰をかも知る人にせむ高砂の 松も昔の友ならなくに
たれをかも しるひとにせん たかさごの まつもむかしの ともならなくに
藤原興風
ふじわらのおきかぜ

No. 35

人はいさ心も知らずふるさとは 花ぞ昔の香に匂ひける
ひとはいさ こころもしらず ふるさとは はなぞむかしの かににおいける
紀貫之
きのつらゆき

No. 36

夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを 雲のいずこに月宿るらむ
なつのよは まだよいながら あけぬるを くものいずこに つきやどるらん
清原深養父
きよはらのふかやぶ

No. 37

白露に風の吹きしく秋の野は つらぬきとめぬ玉ぞ散りける
しらつゆに かぜのふきしく あきののは つらぬきとめぬ たまぞちりける
文屋朝康
ぶんやのあさやす

No. 38

忘らるる身をば思はず誓ひてし 人の命の惜しくもあるかな
わすらるる みをばおもわず ちかいてし ひとのいのちの おしくもあるかな
右近
うこん

No. 39

浅茅生の小野の篠原忍ぶれど あまりてなどか人の恋しき
あさじうの おののしのはら しのぶれど あまりてなどか ひとのこいしき
参議等
さんぎひとし

No. 40

忍ぶれど色に出でにけりわが恋は ものや思ふと人の問ふまで
しのぶれど いろにいでにけり わがこいは ものやおもうと ひとのとうまで
平兼盛
たいらのかねもり