歌 41 – 60

No. 41

恋すてふわが名はまだき立ちにけり 人知れずこそ思ひそめしか
こいすちょう わがなはまだき たちにけり ひとしれずこそ おもいそめしか
壬生忠見
みぶのただみ

No. 42

契りきなかたみに袖をしぼりつつ 末の松山波越さじとは
ちぎりきな かたみにそでを しぼりつつ すえのまつやま なみこさじとは
清原元輔
きよはらのもとすけ

No. 43

逢ひみての後の心にくらぶれば 昔はものを思はざりけり
あいみての のちのこころに くらぶれば むかしはものを おもわざりけり
権中納言敦忠
ごんちゅうなごんあつただ

No. 44

逢ふことの絶えてしなくはなかなかに 人をも身をも恨みざらまし
あうことの たえてしなくは なかなかに ひとをもみをも うらみざらまし
中納言朝忠
ちゅうなごんあさただ

No. 45

あはれともいふべき人は思ほえで 身のいたずらになりぬべきかな
あわれとも いうべきひとは おもおえで みのいたずらに なりぬべきかな
謙徳公
けんとくこう

No. 46

由良の門を渡る舟人かぢを絶え 行方も知らぬ恋の道かな
ゆらのとを わたるふなびと かじをたえ ゆくえもしらぬ こいのみちかな
曾禰好忠
そねのよしただ

No. 47

八重むぐら茂れる宿の寂しきに 人こそ見えね秋は来にけり
やえむぐら しげれるやどの さびしきに ひとこそみえね あきはきにけり
恵慶法師
えぎょうほうし

No. 48

風をいたみ岩打つ波のおのれのみ くだけてものを思ふころかな
かぜをいたみ いわうつなみの おのれのみ くだけてものを おもうころかな
源重之
みなもとのしげゆき

No. 49

御垣守衛士のたく火の夜は燃え 昼は消えつつものをこそ思へ
みかきもり えじのたくひの よるはもえ ひるはきえつつ ものをこそおもえ
大中臣能宣朝臣
おおなかとみのよしのぶあそん

No. 50

君がため惜しからざりし命さへ 長くもがなと思ひけるかな
きみがため おしからざりし いのちさえ ながくもがなと おもいけるかな
藤原義孝
ふじわらのよしたか

No. 51

かくとだにえやは伊吹のさしも草 さしも知らじな燃ゆる思ひを
かくとだに えやはいぶきの さしもぐさ さしもしらじな もゆるおもいを
藤原実方朝臣
ふじわらのさねかたあそん

No. 52

明けぬれば暮るるものとは知りながら なほ恨めしき朝ぼらけかな
あけぬれば くるるものとは しりながら なおうらめしき あさぼらけかな
藤原道信朝臣
ふじわらのみちのぶあそん

No. 53

嘆きつつひとり寝る夜の明くる間は いかに久しきものとかは知る
なげきつつ ひとりぬるよの あくるまは いかにひさしき ものとかはしる
右大将道綱母
うだいしょうみちつなのはは

No. 54

忘れじの行末まではかたければ 今日を限りの命ともがな
わすれじの ゆくすえまでは かたければ きょうをかぎりの いのちともがな
儀同三司母
ぎどうさんしのはは

No. 55

滝の音は絶えて久しくなりぬれど 名こそ流れてなほ聞こえけれ
たきのおとは たえてひさしく なりぬれど なこそながれて なおきこえけれ
大納言公任
だいなごんきんとう

No. 56

あらざらむこの世のほかの思ひ出に 今ひとたびの逢ふこともがな
あらざらん このよのほかの おもいでに いまひとたびの あうこともがな
和泉式部
いずみしきぶ

No. 57

めぐり逢ひて見しやそれとも分かぬ間に 雲隠れにし夜半の月かな
めぐりあいて みしやそれとも わかぬまに くもがくれにし よわのつきかな
紫式部
むらさきしきぶ

No. 58

有馬山猪名の篠原風吹けば いでそよ人を忘れやはする
ありまやま いなのささはら かぜふけば いでそよひとを わすれやはする
大弐三位
だいにのさんみ

No. 59

やすらはで寝なましものを小夜更けて かたぶくまでの月を見しかな
やすらわで ねなましものを さよふけて かたぶくまでの つきをみしかな
赤染衛門
あかぞめえもん

No. 60

大江山いく野の道の遠ければ まだふみも見ず天の橋立
おおえやま いくののみちの とおければ まだふみもみず あまのはしだて
小式部内侍
こしきぶのないし