歌 81 – 100
ほととぎす鳴きつる方をながむれば ただ有明の月ぞ残れる
ほととぎす なきつるかたを ながむれば ただありあけの つきぞのこれる
後徳大寺左大臣
ごとくだいじのさだいじん
思ひわびさても命はあるものを 憂きに堪へぬは涙なりけり
おもいわび さてもいのちは あるものを うきにたえぬは なみだなりけり
道因法師
どういんほうし
世の中よ道こそなけれ思ひ入る 山の奥にも鹿ぞ鳴くなる
よのなかよ みちこそなけれ おもいいる やまのおくにも しかぞなくなる
皇太后宮大夫俊成
こうたいごうぐのだいぶしゅんぜい
長らへばまたこの頃やしのばれむ 憂しと見し世ぞ今は恋しき
ながらえば またこのごろや しのばれん うしとみしよぞ いまはこいしき
藤原清輔朝臣
ふじわらのきよすけあそん
夜もすがらもの思ふころは明けやらで 閨のひまさへ つれなかりけり
よもすがら ものおもうころは あけやらで ねやのひまさえ つれなかりけり
俊恵法師
しゅんえほうし
嘆けとて月やはものを思はする かこち顔なるわが涙かな
なげけとて つきやはものを おもわする かこちがおなる わがなみだかな
西行法師
さいぎょうほうし
村雨の露もまだ干ぬまきの葉に 霧立ちのぼる秋の夕暮れ
むらさめの つゆもまだひぬ まきのはに きりたちのぼる あきのゆうぐれ
寂蓮法師
じゃくれんほうし
難波江の蘆のかりねのひとよゆゑ 身を尽くしてや恋ひわたるべき
なにわえの あしのかりねの ひとよゆえ みをつくしてや こいわたるべき
皇嘉門院別当
こうかもんいんのべっとう
玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば 忍ぶることの弱りもぞする
たまのおよ たえなばたえね ながらえば しのぶることの よわりもぞする
式子内親王
しょくしないしんのう
見せばやな雄島の海人の袖だにも 濡れにぞ濡れし色は変はらず
みせばやな おじまのあまの そでだにも ぬれにぞぬれし いろはかわらず
殷富門院大輔
いんぷもんいんのたいふ
きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに 衣かたしきひとりかも寝む
きりぎりす なくやしもよの さむしろに ころもかたしき ひとりかもねん
後京極摂政前太政大臣
ごきょうごくせっしょうさきのだじょうだいじん
わが袖は潮干に見えぬ沖の石の 人こそ知らね乾く間もなし
わがそでは しおひにみえぬ おきのいしの ひとこそしらね かわくまもなし
二条院讃岐
にじょういんのさぬき
世の中は常にもがもな渚漕ぐ 海人の小舟の綱手かなしも
よのなかは つねにもがもな なぎさこぐ あまのおぶねの つなでかなしも
鎌倉右大臣
かまくらのうだいじん
み吉野の山の秋風小夜更けて ふるさと寒く衣打つなり
みよしのの やまのあきかぜ さよふけて ふるさとさむく ころもうつなり
参議雅経
さんぎまさつね
おほけなく憂き世の民におほふかな わが立つ杣に墨染の袖
おおけなく うきよのたみに おおうかな わがたつそまに すみぞめのそで
前大僧正慈円
さきのだいそうじょうじえん
花さそふ嵐の庭の雪ならで ふりゆくものはわが身なりけり
はなさそう あらしのにわの ゆきならで ふりゆくものは わがみなりけり
入道前太政大臣
にゅうどうさきのだじょうだいじん
来ぬ人を松帆の浦の夕なぎに 焼くや藻塩の身もこがれつつ
こぬひとを まつほのうらの ゆうなぎに やくやもしおの みもこがれつつ
権中納言定家
ごんちゅうなごんていか
風そよぐ楢の小川の夕暮れは 御禊ぞ夏のしるしなりける
かぜそよぐ ならのおがわの ゆうぐれは みそぎぞなつの しるしなりける
従二位家隆
じゅにいいえたか
人も惜し人も恨めしあぢきなく 世を思ふゆゑにもの思ふ身は
ひともおし ひともうらめし あじきなく よをおもうゆえに ものおもうみは
後鳥羽院
ごとばいん
百敷や古き軒端のしのぶにも なほ余りある昔なりけり
ももしきや ふるきのきばの しのぶにも なおあまりある むかしなりけり
順徳院
じゅんとくいん