歌 01 – 20

No. 01

秋の田のかりほの庵の苫をあらみ わが衣手は露にぬれつつ
あきのたの かりおのいおの とまをあらみ わがころもでは つゆにぬれつつ
天智天皇
てんちてんのう / てんじてんのう

No. 02

春過ぎて夏来にけらし白妙の 衣干すてふ天の香具山
はるすぎて なつきにけらし しろたえの ころもほすちょう あまのかぐやま
持統天皇
じとうてんのう

No. 03

あしびきの山鳥の尾のしだり尾の ながながし夜をひとりかも寝む
あしびきの やまどりのおの しだりおの ながながしよを ひとりかもねん
柿本人麿
かきのもとのひとまろ

No. 04

田子の浦にうち出でて見れば白妙の 富士の高嶺に雪は降りつつ
たごのうらに うちいでてみれば しろたえの ふじのたかねに ゆきはふりつつ
山部赤人
やまべのあかひと

No. 05

奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の 声聞く時ぞ秋は悲しき
おくやまに もみじふみわけ なくしかの こえきくときぞ あきはかなしき
猿丸大夫
さるまるのたいふ / さるまるだゆう

No. 06

鵲の渡せる橋に置く霜の 白きを見れば夜ぞ更けにける
かささぎの わたせるはしに おくしもの しろきをみれば よぞふけにける
中納言家持
ちゅうなごんやかもち

No. 07

天の原ふりさけ見れば春日なる 三笠の山に出でし月かも
あまのはら ふりさけみれば かすがなる みかさのやまに いでしつきかも
安倍仲麿
あべのなかまろ

No. 08

わが庵は都の辰巳しかぞ住む 世をうぢ山と人はいふなり
わがいおは みやこのたつみ しかぞすむ よをうじやまと ひとはいうなり
喜撰法師
きせんほうし

No. 09

花の色は移りにけりないたづらに 我が身世にふるながめせしまに
はなのいろは うつりにけりな いたずらに わがみよにふる ながめせしまに
小野小町
おののこまち

No. 10

これやこの行くも帰るも別れては 知るも知らぬも逢坂の関
これやこの ゆくもかえるも わかれては しるもしらぬも おうさかのせき
蝉丸
せみまる

No. 11

わたの原八十島かけて漕ぎ出でぬと 人には告げよ海人の釣り舟
わたのはら やそしまかけて こぎいでぬと ひとにはつげよ あまのつりぶね
参議篁
さんぎたかむら

No. 12

天つ風雲の通ひ路吹きとぢよ 乙女の姿しばしとどめむ
あまつかぜ くものかよいじ ふきとじよ おとめのすがた しばしとどめん
僧正遍昭
そうじょうへんじょう

No. 13

筑波嶺の峰より落つる男女川 恋ぞ積もりて淵となりぬる
つくばねの みねよりおつる みなのがわ こいぞつもりて ふちとなりぬる
陽成院
ようぜいいん

No. 14

陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに 乱れ初めにし我ならなくに
みちのくの しのぶもじずり だれゆえに みだれそめにし われならなくに
河原左大臣
かわらのさだいじん

No. 15

君がため春の野に出でて若菜摘む 我が衣手に雪は降りつつ
きみがため はるののにいでて わかなつむ わがころもでに ゆきはふりつつ
光孝天皇
こうこうてんのう

No. 16

立ち別れいなばの山の峰に生ふる まつとし聞かば今帰り来む
たちわかれ いなばのやまの みねにおうる まつとしきかば いまかえりこん
中納言行平
ちゅうなごんゆきひら

No. 17

ちはやぶる神代も聞かず龍田川 からくれなゐに水くゝるとは
ちはやぶる かみよもきかず たつたがわ からくれないに みずくくるとは
在原業平朝臣
ありはらのなりひらあそん

No. 18

住の江の岸に寄る波よるさへや 夢の通ひ路人目よくらむ
すみのえの きしによるなみ よるさえや ゆめのかよいじ ひとめよくらむ
藤原敏行朝臣
ふじわらのとしゆきあそん

No. 19

難波潟短き蘆の節の間も 逢はでこの世を過ぐしてよとや
なにわがた みじかきあしの ふしのまも あわでこのよを すぐしてよとや
伊勢
いせ

No. 20

わびぬれば今はた同じ難波なる みをつくしても逢はむとぞ思ふ
わびぬれば いまはたおなじ なにわなる みをつくしても あわんとぞおもう
元良親王
もとよししんのう